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2018.04.27 医療や注目を集める体内吸収可能な極薄シートを開発
応用化学科・岡村陽介准教授

研究紹介

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2018.04.27

医療や注目を集める体内吸収可能な極薄シートを開発
応用化学科・岡村陽介准教授

 

10億分の1メートルという目に見えないほどの厚さで体内で溶ける、水は通さず光は通す。そんな条件を兼ね備えた高分子極薄シートの研究が注目を集めている。体内外のどんな部位にも接着剤なしでぴたりと貼りつくことから、大きな傷でも縫う必要がなくなる新たな絆創膏だ。細胞や生体組織にかかわる研究分野では、乾燥を防いで長時間の観察を可能にするラッピング材への応用も期待されている。このシートの開発をはじめ、製造方法の確立や、実用化にも取り組む岡村陽介准教授の研究室を訪ねた。

 

貼る、重ねる、刻んで吹き付ける。体内外どこでも使える「未来の絆創膏」

 

岡村准教授が開発した高分子超薄膜(ナノシート)の厚さは100ナノメートル未満。一般的な紙の1000分の1ほどの厚さしかない。素材はポリ乳酸で、この薄さと素材がさまざまな活用法を可能にする。製造法もいたって簡単なのが特徴だ(図参照)。

「薄膜をここまで薄くすると、接着剤がなくても皮膚や臓器にぴたりと貼りつき、多少こすってもはがれることはありません。ポリ乳酸はすでに手術時の縫合糸として使われている素材で、時間がたてば体内で分解されるため、安全性も高いのが特徴です」

現在使われている縫合糸が不要になるのはもちろんだが、シートで覆うことで傷口の癒着を防ぎ、治癒後の傷跡も少なくなることがわかっている。また岡村准教授が開発した製造法では、複数枚のシートを重ねて層状にすることもできるため、強度を補ったり厚さを自在に調節したりすることも可能だ。さらにシート自体に止血剤など薬剤を含ませることもできる。まさに「未来の絆創膏」といえる。

このシートが持つ可能性はそれだけではない。機能性を持たせたナノシートを細かく砕き、水などに混ぜれば、スプレー剤としても利用できる。ポリ乳酸以外の材料からナノシートを作ることも可能で、実験レベルではロール状での製造もできるようになっていることから、大判ナノシートの大量生産による実用化も視野に入れている。今後は他の研究室や産学連携によって実用化を進め、活躍の場を広めていく計画だ。

偶然の産物が、各界から注目を浴びる研究素材へ

実はこのナノシート製造法は、他のテーマの研究中に偶然成功したものだった。血小板の代用となる粒子を人工的に作ろうとしていたとき、台座となる基板に超薄いシートが貼りついていたのを発見したのがきっかけだった。

「血小板の実験としては失敗だったのですが、得体のしれないシートの薄さ、やわらかさを見たときになにかに活用できないかと考えたのです。それが医療分野をはじめ、幅広い可能性を秘めるナノシートの研究のスタートになりました」という。

研究開発の段階から、容易に製造できる方法、活用法、実用化まで、一連の流れとして考えるのが、実学を重んじる工学部の特徴のひとつ。いまだ未解明な部分も多いが、今後の活用の可能性は広がっている。

「撥水性が高い、つまり水を通さないという性質を生かせば、優秀なラッピング材としても利用できます。研究室では、臓器などの生体組織のラッピング材となるナノシートの研究にも取り組んでいます」

臓器などの生体組織は乾きやすいため、これまでは長時間の観察が難しかった。そこで岡村准教授の研究室では、旭硝子社製のフッ素樹脂「サイトップ®」を材料に使った撥水性超薄膜を製造。このナノシートで細胞を覆って乾燥を防ぎ、高解像度の3D映像画像の撮影にも成功した。そのほか、ナノシートに消臭成分を塗布したものを吹き付けてニオイを閉じ込める次世代消臭技術や、ナノシートにしみこませた香りを発散させる芳香剤の研究も進めている。

クエスチョンを大事に育てると人生が楽しくなる

「研究や大きなことでなくても、社会の情勢でもなんでもいい。なぜなんだろうという興味を持ち続けると、毎日はどんどん楽しくなると思います。そうして知りたいことを調べる。驚いたり納得したりする。そうしていると、喜びや感動にたくさん出会える。クエスチョンを楽しんでほしいですね」

化学が好きだったという岡村准教授が研究者の道に進むことを意識したのは、大学院に進学してからのこと。「仮説を立て、こうなったらいいなと思って実験・研究を進めていく。思った通りの結果が得られたときの喜びや達成感。そして、思わぬ結果が出たときに、その理由を考えたり、それを何かに活用できないかと考えたりするときのワクワク感に夢中になりました」

「なんでこうなるんだろう」「これってこう使えないか」。研究だけでなく、通勤の電車の中や子どもとおもちゃで遊んでいるときも、ふと気づくと目に映ったものに対して探求心がわいてくるという。研究においてもふとした疑問をつきつめることで今がある。「ナノシートの可能性も、その他の研究も、ずっと追及しつづけます」

 

応用化学科:岡村陽介准教授
【Profile】
おかむら・ようすけ
早稲田大学理工学部応用化学科卒業。早稲田大学大学院理工学研究科応用化学専攻修士課程、博士課程修了。博士(工学)ボン大学生命医科学研究所フンボルト財団研究員などを経て2012年より創造科学技術研究機構講師。15年より工学部応用化学科准教授。専門は高分子化学、生体材料学、ナノ材料工学。

 

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