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2018.02.14 蚊の口に学び痛くない注射針をつくる

研究紹介

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2018.02.14

蚊の口に学び痛くない注射針をつくる

工学部精密工学科 槌谷和義教授

精密工学科という名の通り、精密で高機能なものを扱っている槌谷和義教授の研究室。そこは、「究極かつ最先端のものづくり」の現場だ。たとえば「痛くない注射針」。すでに企業が開発し実用化もされているが、さらなる進化を求めて研究が続けられている。

スパッタリング法のイメージ図

 

注射などの際、人に痛みを感じさせない方法はいくつかあるが、そのひとつに針を細くすることが挙げられる。槌谷教授の研究室では、現在世の中に出回っている「痛くない注射針」の、約2分の1の太さ、95ミクロンの注射針を開発している。しかも、記録としては50ミクロンの注射針まで生み出したことがある「ミクロ」のものづくり技術を持っている。

一言で「針を細くする」といっても、そこにたどり着くまでには膨大な道筋がある。単に細い注射針をつくるのであれば残るは技術の問題だ。しかし研究室では、「痛くないためにはどうすればいいか」を考えるところから研究を進めてきた。なかでも、血を吸われても痛みを感じない蚊に着目した。蚊がヒトの血を吸うメカニズムを解明するため、キンチョー(大日本除虫菊株式会社)も訪問。針を刺されたときのストレスを定量的に計測する手法を用い、「痛みの数値化」にも成功した。

目的によって材料を選び、実現する

ここからがいよいよ工学的なものづくり。材料を決め、設計をし、具現化する。「これは世界のものづくりに共通の過程です。学生にはまず材料の知識を教えます。宇宙で使うのか、海の中で使うのか、人体に使うのか。使う場所や目的によって最適な罪障を選ばなくてはなりません」

材料が決まれば強度(剛性)が決まる。ただし、同じ材料でも形状によって強度が変わるので、設計をしながら検証を繰り返す。設計図といって一般に想像されるのは家などの建築物だろう。縮小版の設計図を描いて大きな建築物をつくるが、精密工学の世界では、設計図は拡大版。実際につくるものはごく小さなものだ。そのため、具現化する方法、つまりつくりかたも独自に探さなければならない。

普通の太さの注射針は、素材の塊を引っ張って針にする。しかしこの方法では本当に細い針をつくることができない。また、細ければ細いほど、内部に凸凹があったりすると、血液が内部をうまく通らなくなる。強度を保ちながらごく細く内部がなめらかで、しかも生体適合性がある素材と仕組みとつくり方。それをすべて叶えるものを見つけ出していくのだ。

テーマの模索からつくったものの検証までを一手に担う

 

痛くない注射針実現への答えは、回転する極細ワイヤーに、チタンの粒を降り積もらせていく方法だった。ワイヤーの太さが針の内径になり、積層したチタンの厚みを足したものが外径になる。この方法なら、人体に触れる一番外側に適合性のあるチタンにし、内部には腐食に強い素材や、抗凝固剤などを吹きつけるなどの組み合わせも可能になる。

「目的は同じでも、技術者によってアプローチの方法はさまざま。自分の強みを生かしていくわけですが、私たちはイオンを使って物質を加工する技術をもっています。痛みの数値化と合わせ、独自の技術を駆使して、必要とされるものを世に出していきます」

生み出したところで終わりではないのが研究だ。性能の評価や測定も重要になる。しかし新技術なので評価法や測定法が確立していないことが多い。そのため評価法、測定法も自分たちで編み出すという、すべてをまかなう究極の自給自足のような研究室なのだ。

常に学生に伝えているのは、新聞やテレビからの情報、周囲の人との関わりの中に研究テーマ、つくりたいプロダクトのヒントは転がっているということ。「とにかく楽しめ。そして、これを君だったらどう使う?という質問もいつも繰り返しています。研究に課題やハードルはつきもの。けれど苦しいと思ったことは一度もない。ハードルの先にはいつも、新しい発見をしたり、技術を得たりする充実感があふれています」

 

精密工学科:槌谷和義 教授
【Profile】
つちや・かずよし
1970年岐阜県生まれ。英国国立ウォーリック大学 Ph.D.、茨城大学大学院理工学研究科講師、大阪工業大学ポストドクターを経て現職。予防医療を目的とした医用材料、デバイスの開発に関する研究に従事している。
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