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2017.07.03 捨てる熱で発電、捨てる熱で冷凍、熱音響機関 動力機械工学科・長谷川真也准教授

研究紹介

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2017.07.03

捨てる熱で発電、捨てる熱で冷凍、熱音響機関 動力機械工学科・長谷川真也准教授

工学 

ガソリン自動車が走るようになって約130年。電気とガソリンエンジンを組み合わせたハイブリッドカーも一般的になっているが、それでもガソリンが有するエネルギーの半分以上は大気中に熱として捨てられており、工場などでも多くの未利用熱が捨てられている。今、その捨てられている熱エネルギーを利用する技術研究の躍進が目覚ましい。未利用廃熱を活用する新技術の一つ「熱音響機関」の研究を続ける長谷川真也准教授に聞いた。

熱音響現象の応用事例

長谷川准教授の研究する「熱音響機関」は、本質的には可動部品を用いることなく、一定の温度差(温度勾配)があれば音波(気柱振動)を発生させられる装置だ。「この作用を言い換えれば、『熱入力で動作する可動部品を持たないエンジン』と見なすことができます。また装置の内部で実行される熱力学的なサイクルは本質的に可逆サイクルであるために、高い熱効率を実現できる可能性があるのです」と語る。

古くて新しい熱音響現象

熱音響機関

開発中の熱音響機関

この原理に基づく現象は、日本でも古くから知られていた。約250年前に上田秋成が書いた『雨月物語』に“吉備津の釜”として熱音響現象が紹介されており、現在でも岡山県の吉備津神社で体験できる。蒸しかごに入れた米を釜の上に設置すると、蒸気によって米に温度勾配が生じ、大きな音波が発生する。この音で吉兆を占うのだ。日本には古くから伝わる神事だが、「エンジン」として理論的な理解が進んだのはごく最近のことで、特に実用化を意識した応用研究が進んだのは21世紀に入ってからである。

東海大学の実験では熱音響機関にて発生した音波を用いることで、一切の可動部品を用いることなく熱音響冷凍機をマイナス100度以下まで冷やすことに成功。実験結果を反映し、小型漁船のディーゼルエンジン廃熱を用いて生簀(いけす)を冷やす実証実験も行った。海上での実験ではディーゼルエンジン廃熱で冷凍機をマイナス30℃以下まで冷やすことに成功しており、廃熱を用いた魚の冷凍の可能性を示すことができた。

今の延長上ではない新しい未来の可能性を探る

熱音響機関のコア

熱音響機関コア

熱音響機関のコアを無数に直接連結することで、音響パワーを大幅に増幅することも可能になっている。

「この点を応用すれば、工場の複数個所で発生している廃熱を、熱音響機関で回収し、電力や冷熱に変換できる可能性がある。熱音響機関は可動部品を持たないために、ローストであり、メンテナンスも楽というメリットもあります」

熱音響現象の研究は産業界をはじめ多方面から注目されている。熱音響機関は可動部品を有する既存のエンジンとは異なるために、現在のエンジンの進化とは別の発展が期待できる。まさに「ゲームチェンジング・テクノロジー」。高効率の熱音響機関が提案されたのは1998年だが、それからわずか20年足らずで熱音響機関の研究は飛躍的に進歩している。

「熱音響機関に初めて触れたときのことを覚えています。不思議な現象でとてもワクワクしました。この現象を深く、ずっと研究したいと強く思いました」。子どものころから人一倍探究心が強かったという長谷川准教授。不思議で、人の役に立つ可能性を持つ熱音響現象に強く興味をひかれたそうだ。

未解明の部分、実用化に向けての課題もあるが、捨てられている熱エネルギーから発電や冷凍ができる熱音響機関の可能性は大きい。「これまで熱音響の研究を続けて下さった先行研究者の方々、もちろん今熱音響の研究を行っている研究者の方々、官民の各種機関の助け、一緒に研究を行っている熱心な学生たちに深く感謝しています。熱音響現象の研究が発展し、少しでも環境問題に貢献できるよう、全力を尽くします」。さらなる研究に向けて、長谷川准教授の研究室は熱気に包まれている。

【熱音響機関の原理】

熱音響機関では、一般的に細管流路の束を、高温と常温の熱交換器ではさんだコアを配置する。細管に急激な温度勾配が形成されると、コア内部の流体(空気)が不安定になり、振動が発生して音波(自励振動音波)が生じる。導波管を用いて振動によって発電できるリニア発電機を接続すれば、熱入力から電力を生み出せる。それとは逆に、コア部に音波を入力することで温度勾配を形成し、コア端面の気体を冷やすことも可能だ。これは可動部や有害な冷媒を用いない「冷凍機」とみなすことができる。

動力機械工学科:長谷川真也 准教授
【Profile】
はせがわ・しんや
1978年新潟県生まれ。2006年、東海大学大学院工学研究科機械工学専攻博士課程後期修了。自動車メーカーへ入社し、次世代エネルギー技術の研究に従事。10年より現職。
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