電線がなくても電気を送れる無線電力伝送技術 電気電子工学科・稲森真美子講師
工学部電気電子工学科・稲森真美子講師
コードを伸ばしてプラグをコンセントに差すことなく、無線で電力を供給する――。配線から利用者を解放するといった利便性はもとより、漏電やショートの危険性もなくなることから、近年注目されているのが「無線電力伝送技術」だ。すでに電動ハブラシやスマートフォンの充電器として利用されているが、幅広く活用するためには多くの課題がある。電気電子工学科の稲森真美子講師は、専門分野である無線通信の技術を生かし、無線電力伝送の効率をより向上させ、安定させるシステムを研究している。
無線通信で電力伝送をアシスト
電線を使わずに電力を送る技術は、19世紀から研究が始まった「夢の技術」だが、長らく実用化されなかった。研究が一気に進んだのは1990年代に入ってから。2010年には無線伝送の国際規格が定められ、電動歯ブラシやスマートフォンの充電装置に使われるなど活用が進んでいるが、さらなる普及の壁になっているのが、伝送効率が落ちやすいなど、電力伝送が安定しない問題だ。
「現状では電気の送信装置と受信装置の距離が少しでも離れたり、位置がずれたりすると同じ量の電力を送っても極端に効率が落ちてしまうんです。その課題を、Wi-Fiなどに使われている無線通信技術を利用し、双方の情報を相互に把握して『送る電力量』や『装置の設定』を調整して解決を目指すのが私たちの研究です」
稲森講師は学生のころから、無線通信の研究に取り組んでおり、現在もこの分野の研究も進めている。Wi-Fiや携帯電話の電波などさまざまな周波数の電波の中から、目的に合った周波数を受信機自体が自動で選択し、「途切れない通信」を可能にする技術の開発が目標だ。今回の研究も、無線通信を研究し続けてきた稲森講師だからこそ生まれた発想だといえる。「電力伝送も無線通信も用いるのは同じ電波。双方をうまく組み合わせることで、無線通信と電力供給の新たな可能性を開きたい」と話す。
車の充電も電気製品もコードレス!?
無線電力伝送技術には、電気自動車を製造する自動車メーカーからも大きな期待が寄せられている。
「現在はコンセントを自動車につなぐ方式が主流ですが、トラブルの危険もある。高効率な無線伝送が実現できれば、充電装置の上に駐車するだけで手軽に充電できるようになり、安全性も高まると期待されています。さらに、高速道路の1車線に送電装置を埋め込んで無線電力伝送専用レーンすれば、走りながら充電することも可能になるかもしれません。電子レンジや電気炊飯器などの家電もコードレスになれば、ごちゃごちゃした電源コードからも開放されてより快適に過ごせるようになります」
最近は、共同研究者でパワーエレクトロニクスの専門家の森本雅之教授(電気電子工学科)の研究室と共同で、水中での無線伝送技術の研究も始めている。まだ始まったばかりだが、「たとえば水中ロボットに無線で電力を送れれば、大幅なコストの削減につながり、無線通信と組み合わせれば遠隔操作も可能になる。将来的には東海大学海洋学部との共同研究ができればうれしいですね」
通信が人々の生活を豊かにする
通信や電力は私たちの生活に欠かせない技術。稲森講師は、だからこそやりがいがあると語る。
「電波は目に見えませんが、その技術は目に見えて人々の生活を豊かにできる。どんな離島に住んでいても世界とつながり、教育や医療、エンターテインメントなどを共有できるのが魅力。未来を創造する無線通信、無線電力伝送に関する研究をさらに深めていきたい」
【Profile】
1982年鹿児島県生まれ。2009年9月慶應義塾大学大学院理工学研究科デザイン工学専攻博士課程修了。博士(工学)。同大学工学部電子工学科助教、ソニーコンピュータサイエンス研究所客員研究員を経て2013年4月から東海大学講師。専門は無線通信、無線電力伝送など。電力工学と通信工学を融合し、省エネルギーに貢献する社会インフラの実現を目指した研究を行っている。