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2017.06.06 リチウムイオン二次電池の材料を電子レンジで合成 応用化学科・樋口昌史教授

研究紹介

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2017.06.06

リチウムイオン二次電池の材料を電子レンジで合成 応用化学科・樋口昌史教授

工学部応用化学科 樋口昌史教授

スマートフォンやパソコンなどの高機能電子機器に広く使われているリチウムイオン二次電池。パワーがあって耐久性に優れ、小型・軽量化が可能な充電式電池として、最近では、電気自動車をはじめ、風力発電、太陽光発電といった自然エネルギーの蓄電システムにも利用されている。一方で、リチウムイオン二次電池のプラスとマイナスの電極にはCo(コバルト)やNi(ニッケル)などの希少金属が使われており、価格が高く、合成に時間がかかるなどの課題があった。無機化学を研究している工学部応用化学科の樋口昌史教授は、安価な材料を使った電極を家庭用の電子レンジで合成する技術を考案し、世界の研究者を驚かせた。なぜ電子レンジに注目したのか? その発想の源とは? 樋口先生に聞いた。

リチウムイオン二次電池の主な応用分野

 

リチウムイオン二次電池は、電極となる「正極材料」「負極材料」と、電極間に位置する「電解質」で構成されている。リチウムを含んだ酸化物で作られた正極と、黒鉛などからなる負極の間に酸化・還元反応が起き、正極と負極の間をイオンが行ったり来たりすることで充電、放電するメカニズムだ。樋口教授は、電池の性能を左右する正極の材料を中心に長年研究してきた。

正極材料の性能を高めるためには、一般に、600℃程度の高温で6時間から10時間かけて焼き上げる必要がある。なぜなら、焼き上げるのに必要な熱は物質の外側からゆっくりと伝わるからだ。その課題を解決するため、樋口教授は電子レンジのマイクロ波に着目した。「数十秒でお湯が沸くように、マイクロ波は物質の内部にも到達し吸収されやすい性質を持っているので、短時間の化学合成が可能なのではと考えました。実験を重ねた結果、10分程度で電池で利用可能な材料を合成する技術が確立できました」

新発想の種は日常にある

「ヒントになったのは、昔テレビで見た、電子レンジにものを入れて火花を飛ばす実験だった」と振り返る。「金や銀の箔がついた食器をレンジに入れて、火花が出た経験がある人もいるのではないでしょうか。ちょうど同じころ、マイクロ波を使って化学物質を加熱する実験を知る機会もあった。これらの発想が頭の中でつながって、『電子レンジを使うと面白いことができそうだ』とひらめいたのです。」

しかし、すぐに成果が出たわけではない。「原料だけを入れても十分に加熱されず、何も変化が起きない。電子レンジ内で金属が放電(スパーク)するのを思い出し、原料に混ぜる金属の種類と量を試行錯誤しながら実験を繰り返しました」。その結果、正極の原料にわずかな金属粉末を混ぜて正極材料であるLiFePO4(リン酸鉄リチウム)の合成に成功。2002年にこの研究成果を発表した。以後、世界各国の研究者がマイクロ波を使った正極材料の合成研究を始め、今では電池材料の迅速な合成法の一つとして、マイクロ波が広く使われるようになっているという。

「化学に限らず様々なことに興味を持ち、見たり聞いたりしたことと学んだことをつなげて考えていくと、きっと何かワクワクしたものができる。学生たちに、いつもそう話しています」

材料化学で世界を変える

化学の道を選んだのは、小学生のときに足尾銅山鉱毒事件の解決に生涯をささげた田中正造の伝記を読み、「公害をなくしたい。人々が住む環境をよくしたい」と思ったのがきっかけだと語る。東海大学工学部工業化学科(現・応用化学科)に進学し、恩師から「根本から環境をよくしたいと思うのなら、“ものづくり”に携わるべきだ」と教わり、無機材料化学を専攻した。現在も「環境に負荷をかけない」ことをベースに、電池をはじめ、さまざまな機器の性能を高める材料やその合成方法を研究している。

 「よい材料がなければよい製品は作れません。リチウムイオン二次電池も、核となる正極材料があったからこそ実用化されたのです。何もないところからものを作るのが化学分野の研究者。“縁の下の力持ち”としてよりよい材料を研究開発し、製品の劇的な変化やブレイクスルーを起こすのが醍醐味です。学生と一緒に新しい性質を持った物質を合成し、世界を変えるのが夢ですね」

 

応用化学科:樋口・昌史 教授
【Profile】
ひぐち・まさし
1971年京都府に生まれ神奈川県育ち。1999年東海大学大学院工学研究科工業化学専攻博士課程修了。博士(工学)。専門は、無機合成化学、無機材料化学など。低環境負荷型リチウムイオン二次電池用化学物質、メソポーラス物質、紫外線吸収物質などに着目し、21世紀を担う新しい無機化学物質の合成と評価に関する研究を行っている。

 

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