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2022.02.24 次世代電池で人々を幸せに
応用化学科・松前義治先生

研究紹介

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2022.02.24

次世代電池で人々を幸せに
応用化学科・松前義治先生

地球温暖化が進む中、再生可能エネルギーや電気自動車など新たな技術がどんどん進化しています。そんな中、大きな課題となっているのが“いかに電気エネルギーを溜めるか”です。既存の電池では、蓄えられる電気の容量が足りなくなることが分かっており、世界中で研究が続けられています。その課題に新しいアプローチで挑む応用化学科・松前義治先生にお話を伺いました。

電池の技術が限界に!?

スマートフォンにワイヤレスイヤホン、そしてノートパソコンなど、さまざまな製品に蓄電池は使われており、隠れた“生活必需品”となっています。現在その主流はリチウムイオン電池なのですが、すでに理論上蓄えられる電気容量の限界に近づいています。

さらに電極に欠かせないコバルトやリチウムなどのレアメタル(希少金属)は文字通り埋蔵量が限られており、もしこのまま電気自動車の普及が進めば数十年のうちに枯渇してしまうといわれています。そのため世界中の企業や研究機関が次世代蓄電池の開発を続けているのです。

硫黄を使って電池容量を10倍に

そんな中、松前先生は資源が豊富でとても安価な硫黄に着目。電子レンジでも使われているマイクロ波を使ってリチウムと硫黄の化合物(硫化リチウム・Li2S)を作り、電池の容量を画期的に増やす技術の開発に取り組んでいます。

「リチウムイオン二次電池は、正極と負極の間をリチウムイオンが行き来することで充放電ができます(上図参照)。その正極を硫化リチウムに変えることで、容量を10倍にできるのです。従来のリチウムイオン電池よりも安全性が高く軽量にできるだけでなく生産コストも大幅に削減できるため、風力や太陽光などの発電施設で必要になる大規模蓄電池にも最適で、クリーンエネルギーをさらに後押しできると期待しています」

もちろん硫化リチウムはこれまでも知られていた化合物で、電池への応用も検討されてきました。ただこれまでは合成にかかるコストが高く、品質が一定しないうえ、合成中に人体や環境に有害な物質が出るためほとんど実用化されてきませんでした。そんな中、松前先生は電子レンジに着目します。

「電子レンジで食べ物を温めるときには、レンジから出るマイクロ波で野菜や肉の中の分子が振動して中から温まっていきます。それと同じ方法を使って原料を温めることで従来の100分の一の時間で均質な硫化リチウムを合成することに成功しました。シンプルな手法なのでコストも安く、もちろん合成の過程で有害物質も出ません」

研究室では次のステージとして、リチウムをカリウムやナトリウムなど安価な物質に置き換えた電極の開発も進めています。

「カリウムやナトリウムは世界中のどこにでもある物質。これが実現できればさらに低コストで環境負荷の少ない電池が生み出せるはずです」

さらなる電池の進歩に向け、次世代技術を開発

松前先生のフィールドは、電極にとどまらず、正極と負極の間を仕切るセパレーターや電極で生み出された電気を運ぶ導電材料、電池内を満たす電解質にも及んでいます。

「電池はサッカーやバレーボールなどのチームスポーツと同じで、一人だけスターがいても性能を発揮できません。さらにわかっていないことも膨大にあって、新発見の可能性が無限に広がっています。なによりその成果が環境や資源問題の解決に貢献できる可能性がある。これほど面白いことはありません」

本質を見極める視点を忘れずに

映画「スターウォーズ」が好きで子どものころからSFや科学が好きだった松前先生。化学の道に進んだのは中学生の時に生体内反応の美しさに魅せられたのがきっかけだったといいます。その影響で大学はバイオ分析の研究室で学んだ後、有機材料を電池に応用する研究に出会い、今の研究に携わるようになったといいます。

「その時々で自分がやりたい、知りたいと思ったことを大切にしてきた結果、今に至るといった感じですね」

そんな松前先生がいつも大切にしているのは、自分が幸せであることと、物ごとの本質を理解しようとする姿勢だといいます。

「幸せの形や感じ方は人それぞれ。もちろん大変なこともあるので、その中でも楽しめることを見つけようとする姿勢も必要だと思います。一歩先の幸せを切り開いていくために、常に自分をアップデートしていくように心がけています」

「また、どんなことにもプラスとマイナスの面があり、どんな実験や挑戦にも発見があると思っています。大事なのは結果の本質がどこにあるのかを見極めて、次のステップに活かすこと。そのことを大切にしていきたいですね」

【Profile】応用化学科・松前義治 先生
まつまえ・よしはる 1986年東京都生まれ。東北大学工学部化学・バイオ工学科卒業後、同大大学院環境科学研究科環境科学専攻博士課程修了。横浜国立大学大学院工学研究科助教を経て2020年より現職。専門は電気化学、応用例は次世代二次電池など
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