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2019.12.06 二酸化炭素から、エネルギーとして使えるメタンをつくる
工学部材料科学科 源馬龍太講師

研究紹介

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2019.12.06

二酸化炭素から、エネルギーとして使えるメタンをつくる
工学部材料科学科 源馬龍太講師

異常気象の増加もあり、あらためて注目が高まっている地球温暖化問題。その原因の筆頭にあげられるのが温室効果ガスだ。温室効果ガスは大気圏にあり、地表から放射される赤外線を吸収して温室効果をもたらす気体の総称だ。なかでも二酸化炭素は、イコール地球温暖化の主な原因と考える人がいるほど悪役のイメージが定着している。その二酸化炭素が、資源として使えたとしたら……。環境問題と資源問題、両方の解決の手がかりとなるための研究を進めている、工学部材料科学科の源馬龍太講師の研究室を訪れた。

悪い物質があるのではなく、物質同士のバランスの崩れが悪影響をもたらす

「二酸化炭素はもともと地球上に存在するもの。それ自体が悪いものではありません。人間にとって、たまたま問題になる場合があるというだけです」(源馬先生)。

地球の歴史を振り返れば、現代よりも二酸化炭素濃度が高い時代はあった。にもかかわらずいま問題になっているのは、大気中の二酸化炭素濃度が急激に上昇しすぎていること。本来であれば、森林や海に吸収され、地球の浄化サイクルの中でうまく循環されるはずの二酸化炭素だが、化石燃料を短期間に大量に燃やし続けている結果、濃度が急上昇した。

二酸化炭素は赤外線を吸収して振動することで熱を放出する。二酸化炭素がなければ、または極端に少なければ、地球は冷えすぎて人間は生きられない。実は二酸化炭素以外にも、水(水蒸気)やメタンなど、温暖化を引き起こす物質はたくさんある。

「温暖化のメカニズムはとても複雑で正確にはわかっていない。その中で特に二酸化炭素が悪者扱いされやすいのは、すでに温暖化との相関関係がデータ化されているからではないかと感じます」(源馬先生)。

海も陸も空も、すべてひとつの地球としてリンクしている

「問題なのは二酸化炭素だけではありません。そしてその濃度だけでもない。地球の変化とともに時間をかけて状況が変わっていくのであれば、それは自然なことです。けれど、今は人の営みによって急激な濃度の上昇が引き起こされた。それが問題なのです」

とはいえ、現実問題として二酸化炭素の濃度を下げることは必要だ。そのために、世界中の研究者が解決策を研究している。その一部を紹介しよう。

二酸化炭素を材料として有益なものを生み出したい

 

二酸化炭素の処理についての研究は盛んだ。たとえば圧縮して地中に埋め、固体として安定化させる方法。地球のプロセスが長い時間をかけて続けていることを、人工的に行わせようというものだ。

プラズマで二酸化炭素を分解するという方法も研究されている。ただし、そこで炭素を何か別の物質に変えないと、すぐに二酸化炭素に戻ろうとする。「自然界の法則には逆らえない」(源馬先生)からだ。

源馬先生の研究は、水素吸蔵合金を使って二酸化酸素と水素からメタンをつくりだすもの。金属の中には水素を取り込む性質を持つものがある。その性質を利用して二酸化炭素と水素から別の物質を作る研究は、すでに1970年代から進められている。

より効率よく、より安定した手法を求めて

たとえばそこに300度ほどの熱を加えると、水素と二酸化炭素から都市ガスの主成分であるメタンができることは従来の研究で分かっていた。「けれど300度の熱を加えるとなると大きなエネルギーが必要です。もっと低い温度、できれば室温程度でもメタンを生成する方法がないかと考えました」(源馬先生)。

茶筒程度の大きさの金属のポットにパチンコ玉のようなステンレスのボールと、水素吸蔵合金の粉をひとつまみ入れる。さらに注射器上の器具で水素と二酸化炭素ガスを注入し、高速でかき混ぜる。

「ボールがパカッと割れると、新しい表面が出現しますよね。新しい表面は気体が反応しやすい特性を持っています。その性質を利用すれば室温でも化学反応が起きてメタンができるのではないかと考えたところ成功しました」

ボールミリング法と呼ばれるこの手法は、金属のポットとかくはん機があれば、メタンが生成できるシンプルさが特徴だ。

「二酸化炭素をメタンに転化できれば家庭用のガスとしても活用できる。なによりも実験データをメタン生成に、より有利な触媒や生成方法の提案につなげる。未来への礎となる基礎研究。そこにやりがいを感じます」(源馬先生)。

資源の乏しい日本にとって、エネルギーの自給率を上げられる可能性には大きな期待がかかる。環境面でも、二酸化炭素の排出権が通貨として使われるようになれば、経済効果も期待できるのだ。

科学はすべてつながっている、未知のすべてが楽しい

源馬先生の研究室では、学生たちがそれぞれの興味関心を大切にしながら、最先端の研究に取り組んでいる。その中で、谷田貝昴平さん(大学院1年生)二酸化炭素からメタンを作る研究に取り組んでおり、国際的な学術雑誌に論文が掲載されるなど大きな成果を収めている。

「仮説を立てて実験をする。思った通りメタンができたら、その瞬間は“できた!”と高揚しますが、すぐに冷静になる自分がいます。“本当に大丈夫かな?」と。メタンができることはわかったものの、そのメカニズムのすべては解明できていない。だから何度も実験を繰り返し、ポットの中で反応した合金試料をナノレベルで調べたりする。

大学の入学当時から水素に興味があったという谷田貝さん。入学して気づいたのは「学びに分野は関係ない。すべての事象はつながっている」ということだった。「研究というのはすぐに結果が出るものではないので、大変な面はあります」

これまでの実験では、最長で合計80時間、水素吸蔵合金を入れた容器をかくはんし続ける実験も行っている。やらされているのではない。自分の頭で考えたことが正しいか、試してみるしかないから試す。原動力は未知に挑むワクワク感。時には思い通りの、時には思わぬ結果が出る。そのすべてが新しい発見であり、楽しいという。学会にも積極的に出席し、論文にも挑戦する。

やりたいことはやる、テリトリー外で挑戦してみる

「そのときどきにしかできないことがある。やりたいと思ったことにはどんどん挑戦して、いろいろ経験したらいい。外国での学会のときなど、準備が大変でブルーになったりすることもあります。でもやりきったとき、やってよかったなって実感します」(谷田貝さん)。 

ドイツとサウジアラビアでの研究経験がある源馬先生もいう。どちらの国も国際色豊か。日本の常識は通用しない。ひとつひとつ、自分で考え実践し、切り拓いていくしかない。でも、自ら積極的に動けば、周囲に専門家として認められ、尊重してもらえる。

「日本にいても学べることは多いけれど、自分のテリトリーを出ることでしか学べないこと、できない経験があります。それが研究も人生も豊かにしてくれる。さまざまな選択肢があることも、日本で学生をしている特権です。それを生かしてほしいですね」

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