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2021.06.30 【おしえてセンセイ!9】
世界中で水素が注目されているのはなぜ?

おしえてセンセイ!

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2021.06.30

【おしえてセンセイ!9】
世界中で水素が注目されているのはなぜ?

安全で使いやすい次世代エネルギー源だからです

工学部精密工学科・内田ヘルムート貴大先生

皆さんが水素に最初に接するのは、中学校の科学実験かもしれません。水を電気分解して、酸素と水素を取り出す実験をした記憶がある人も多いでしょう。その水素が今、世界を大きく変えようとしています。電力を貯めたり、運んだりするキーパーソンとして、はたまた自動車や船を動かす燃料電池として注目を集めています。

背景にあるのは、地球温暖化対策です。水素は燃やしても二酸化炭素を出しません。つまり、環境への負荷が少ないのです。しかも空気中に放つと1秒間で50mも拡散するため、漏れ出しても燃えたりする危険性が低いのです。しかも電力を水素に変換する技術が開発されたことで、天然ガスのパイプラインを使って遠隔地に運んだり、水素吸蔵合金という金属に貯めてトラックなどで運搬したりすることも可能になっています。つまりとても使い勝手がいいのです。

すでにヨーロッパでは、次世代のエネルギー源として活用が積極的に活用され始めています。貯蔵しにくいエネルギーの形態である電力を、水素という形で貯めることが国際的な約束事となっており、発電所で作った電気の余りを水素に変換して活用する技術も実用化されています。日本でも近年、家庭用燃料電池エネファームや水素ステーションの導入が進み、少しずつ水素の活用が始まっていますが、本格的な活用はこれから。ヨーロッパにはるかにリードされている状況です。

もちろん課題もあります。例えば、燃料電池を作るためにはプラチナという貴金属が不可欠なのですが、この金属は地球上で50mプール1杯分しか採掘できないといわれています。そのため、今地球上で走っている車をすべて燃料電池車に切り替えることはできません。水素とチッソと反応させてアンモニアを作り、農業用の肥料を作る研究や、水素と二酸化炭素を反応させてタクシーなどのメタンガスで走る自動車の燃料に使う技術が普及されつつありますが、実用化はまだまだこれからです。私の研究室でも、水素吸蔵合金を使ってアンモニアを作る研究や水素をパイプラインなどで運んだ際に金属に及ぼす影響などの研究を進めていて、研究すべき課題は無数にあります。長く資源小国と呼ばれてきた日本。この国で暮らす人々の豊かな生活の維持に貢献するため、これからも研究を続けていきたいと思います。


うちだ・へるむーと・たかひろ 1980年西ドイツ生まれ。東北大学工学部卒業、同大学院工学研究科知能デバイス材料学専攻修了、ドイツ・ゲッティンゲン大学物理学部付属材料物理学研究所でDr.rer.nat.(Ph.D.)取得。専門は材料工学、材料物理学。

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