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2019.03.22 生物のもつ機能や形状を工学や医療などの分野に応用する、 バイオミメティクスの研究
航空宇宙学科航空宇宙学専攻 稲田喜信 教授

研究紹介

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2019.03.22

生物のもつ機能や形状を工学や医療などの分野に応用する、 バイオミメティクスの研究
航空宇宙学科航空宇宙学専攻 稲田喜信 教授

鳥のくちばしの形を参考にした新幹線の先頭車両。昆虫の翅を参考にした風車のブレード。蚊を参考にした痛みの少ない注射針。これらは生物のもつ機能や形状を工学や医療などの分野に応用する、バイオミメティクスの研究から生み出されたものだ。生物から学び、それを工学の分野に生かすための研究を進める稲田喜信教授に、その多様な可能性をうかがった。

自然と工学の関係を断ってはいけない

生物の形状や機能は、長い時間をかけ、自然界でより効率よく暮らすために進化してきたものだ。そんな生物から着想を得ることで、新しい技術の開発やものづくり、それらのプロセスの考え方も広がる。近年ますます注目を浴びるバイオミメティクス。新幹線や注射針のような成果も次々と世に出ている。

「私たち人間も自然界の一員です。科学が自然と乖離しすぎてしまうと、味気なさを感じるのではないでしょうか。また、自然を無視した進歩や発展は、必ず行き詰まりを迎えるはず。ある事象や目的に対して、ひとつの分野や、一方向からだけ解明しようとすると、それぞれの研究はうまくいったとしても、社会や未来に向けた可能性は狭まってしまう。どんなに科学が進歩しても、私たちの営みの原点は自然です。自然界に学ぶことは、どんな分野でも必要でしょう」と、稲田教授は言う。

イルカの母子の関係を工学で解き明かす

ひとことで工学と生物学を結びつけるといっても、稲田教授の研究分野は多岐に及んでいる。たとえばイルカの研究。イルカの母子は寄り添って泳ぐことが知られている。生物学の世界では、泳ぎがまだ下手な子イルカが、母イルカに長時間ぴったりついていける理由が長く謎だった。

「流体力学の視点から研究してみたところ2頭のイルカが一緒に泳ぐとき、子イルカの水中の抵抗がほぼなくなる位置関係があることがわかったのです。実際に、母子イルカが泳いでいる資料映像を見ると、みんなその位置関係をとっています。そこでは子イルカはほとんど泳ぐことなく、母親に半ば吸い寄せられるようにしてついていくことができます」。

その答えにたどり着くためには、イルカの模型をつくり、水と同じ流体である風を使った風洞実験を何度も繰り返す。海にイルカを見にいったり、アザラシを扱う研究では水族館に通ったりもする。生物が相手だから思うようにいかないことも多い。生物を研究し、仮説を立て、実験をして結果を出す。ひとつのテーマに対して答えが出るまでに、このプロセスで3年ほどかかるのが普通だ。

「工学が生物から学ぶと同時に、自然界も物理法則に従っています。仮説を立てて実験すること、自然のままの生き物を見ること、どちらも欠かせません」。

環境負荷を軽減しながら、やりたいことを合理的にやる

もともと生物学を専攻していた稲田教授。生物の形に興味があり、それが動きのメカニズムへの興味となり、大学院から工学の分野に進んだ。

「生物の形や動きは最適デザインの宝庫」。だから何を見ても発見があり、研究を生かせる分野も無限にあるはず。たとえばイルカの母子の泳ぎ方は、自動車の追尾システムに活用できるかもしれない。圧力という新しい情報源を使って制御する新システムが、省エネルギー化に貢献できるのではないか。群れを作る生物にその意味を学べば、飛行機などを群れで飛ばすことにメリットが見出せるかもしれない。

ただし「この生物のこの機能をここに生かしたい」と考えて研究を進めるよりも、興味のあることを研究し、結果的に「これに使えそう!」ということが多いとか。応用のターゲットがあると思考が縛られ、新しい情報に気づきにくくなることがあるからだ。学生にも「面白いと感じることを突き詰めればいい。結果は後からついてくる」と伝えている。

「こうでなければとか、こうすべきという枠組みを取っ払って、好きなことを研究できる時期を味わってほしい。好きなことを見つけ、楽しく夢中になれること自体が成功体験です。一度それを味わっておけば、自分のための判断基準ができる。それがあれば、多少のことではメゲないし、自分の仕事を任されたときにきっと花開きます」

航空宇宙学科航空宇宙学専攻:稲田喜信 教授
【Profile】
いなだ・よしのぶ
1963年兵庫県生まれ。京都大学理学部卒業後、東京大学大学院工学研究科航空学専攻修了。富士通研究所研究員、独立行政法人宇宙航空研究開発機構総合技術研究本部研究員などを経て、2010年から現職。博士(工学)。専門は、飛行力学、飛行制御、バイオメカニクス、バイオミメティクスなど
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