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2019.02.22 自転車、車、歩行者が心地よく共存できる社会を目指す 
工学部土木工学科・鈴木美緒准教授

研究紹介

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2019.02.22

自転車、車、歩行者が心地よく共存できる社会を目指す 
工学部土木工学科・鈴木美緒准教授

2011年の東日本大震災後、災害対策や環境、健康への意識の高まりなどを受けて、ロードバイクの販売台数が伸び続けている。2017年には、国や各自治体が自転車の積極的な活用をサポートすべきという「自転車活用推進法」も施行されたが、車や歩行者とのトラブルが増えて続けているのも事実だ。走行空間やルールの徹底をはじめ、安全な自転車走行、そして他の交通手段との共存に向けての課題は多い。そんな広大かつ社会的ニーズの高い分野に挑んでいる鈴木美緒准教授の研究室を訪ねた。

自転車、車、歩行者、それぞれの知識と意識が必要

日本は世界有数の自転車大国といわれている。ママチャリに代表される日常生活で使われる自転車は、多くの人にとって身近な乗り物だ。近年ではロードバイクの利用者も増加している。自転車は道路交通法上では軽車両、つまり車と同等に扱われる。ロードバイクもママチャリも、車道の左側を走行するのが正しい。しかし、「日本では自転車の正しい走行ルールが浸透していない、知っていてもあまり守られていないのが現状だ」と鈴木准教授は語る。自転車の乗り手だけでなく、車の運転車も自転車の走行ルールを知らない。自転車が車道を走っていると「ジャマ」「歩道を走ってほしい」などと思うドライバーは多いだろう。

「交通マナーの徹底や安全な交通システムの実現には、道路を使うすべての人たちの行動と意識が関わってきます。ハード面では道路の構造の問題も大きい。海外で一般的な自転車専用走行路も、国土の狭い日本では地方の一部でしか作れない。速度の速い車用、遅い車+自転車用、歩行者用という3種の道路を併設できればいいのですが、それも現実的ではありません」

日常に密着したテーマだから、どんなことも研究に結びつく

身近な乗り物でありながら、ソフト面でもハード面でも安全に向けての課題が

鈴木准教授の研究室で開発したシミュレーター。利用者が普段使っている自転車で利用できるほか、持ち運びも可能だ

膨大にある自転車。一歩一歩解決していくために、鈴木准教授は、事故の原因分析やフィールドワーク、運転時の行動分析など多角的な視点から研究している。

たとえば事故の原因分析。どのような状況で事故が起きたのか、データを集めて分析する。自転車と車の接触事故は、信号のない交差点での出会い頭が多いという。それぞれの事故の詳細な分析を積み重ねることによって、事故が起こらないようにするために必要なことを探し出していく。自治体や学校、警察、他の分野の研究者たちとの連携も不可欠だ。

「研究データは活かしてはじめて成果になります。信号の脇に背の低い植栽がある場所では、視認性が落ちて事故が起きやすい。自治体などにそのデータを示し、植栽をやめるよう働きかける活動も行っています。それによって新たに植栽を設けるケースが減るとともに、“植栽を設置することが望ましい”となっていた道路整備のルールを“中木、低木の植栽は必ずしもいいわけではない”といった方向に変えることにつながりました」

ヴァーチャル・リアリティーを利用したシミュレーターで協力者に道路を走行してもらう研究も実施。車道や歩道の端に青いラインが引かれ、自転車マークがついているところを設けた時の効果などを検証した。法律上は自転車の走行レーンとして認められていないが、目安としての有効性はあるはず。その有効性や、逆に車道にラインがあることで、車のスピードが落ちて渋滞が起きるのではないかという仮定を検証した。

「多くの人が自転車や車の運転を経験しているので、それぞれの視点から交通問題を考えてしまいがちです。青い線が車道にひかれている場合、車のドライバーはそこを避ければいいという目安になって、実際はそれほどスピードが落ちなかった。でも頭で考えただけだと、道路が狭くなり渋滞の原因になると決めつけがち。客観的なデータを示すことで、事実を明らかにしたり、説得の材料にしたりすることができます」

安全・快適な交通システムの実現から、よりよい文化、社会を育む

免許がなくても運転できる自転車の乗り手や歩行者に交通ルールを浸透させること。ルールは知っているけれど守らない人々に、どうルールを守らせるか。子供の頃から教育を徹底する方法はあるか。心理学や教育学の専門家との連携も必要になる。

研究者が少ない分野であり、シミュレーターなども必要に応じて研究室で開発、制作している。あえてルール違反を起こしやすい状況をつくり、それがどんなに危険なことかを実感してもらう、ユニークなシミュレーターも作り上げた。

「どんなに道路が整備されても、自転車、車、歩行者がそれぞれ自分勝手に使っていたら安全は確保できません。それぞれが譲り合いの精神をもって道路を使うことが当たり前になり、文化になること。それは交通の問題にとどまらず、よりよい社会の実現につながるのだと思います」

大学の学部生の時には応用物理を専攻し、太陽電池の研究をしていた鈴木准教授。単位合わせのような軽い気持ちで受講した都市計画の面白さ、広大な可能性、社会貢献度などにひかれ、大学院から土木に路線変更。院生時代に学部レベルから学び直した。特に自転車については、「こんなに身近なのに手つかずの分野はないだろう。やれることがいっぱいありそうだなと思いました(笑)」

土木工学は英語ではcivil engineering、public worksと表現される。「市民の」「公の」という意味をもつ。日本語の「土木」は建築の基礎のようなイメージだが、実際は国や社会の基盤、根幹を築くものだ。そこがどんな街になるか、そこでどんな文化が育まれているか、ひいてはどんな国で、人々がどのように暮らしていくかを決定づける要素ともいえる。

鈴木准教授はその魅力を多くの学生に感じてほしいという。「土木の世界は本当に奥が深く、研究テーマはいくらでもあります。学生と一緒に研究していく過程の一つひとつが楽しい。一緒に考え、活動する中で、『社会の役に立てているな』とふと感じる瞬間がある。多くの学生にその喜びややりがいを味わってほしいし、共有したいですね」

土木工学科:鈴木美緒 准教授
【Profile】
すずき・みお
慶応義塾大学理工学部物理情報工学科卒業後、東京工業大学大学院総合理工学研究科人間環境システム専攻博士後期課程修了。博士(工学)。財団法人運輸政策研究機構運輸政策研究所研究員、東京大学生産技術研究所人間・社会系部門特任助教などを経て、2018年4月より現職。専門は交通工学、交通計画など
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