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2019.02.25 患者にも看護・介護スタッフや家族にもやさしく安全な食事を実現するオーダーメード流動食
 応用化学科・淺香隆教授

研究紹介

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2019.02.25

患者にも看護・介護スタッフや家族にもやさしく安全な食事を実現するオーダーメード流動食
 応用化学科・淺香隆教授

科学や医療の進歩によって、人類、特に日本人の長寿高齢化は著しい。しかし、それは同時に体のどこかしらの病気や、体の機能の低下などとつきあいながら生きる人の増加、そして、そういった不調を抱えながら生きる期間の長期化にもつながっている。そんな中で健康維持、生命の安全、さらにはクオリティ・オブ・ライフを考えたとき、ひとりひとりのケースに合わせた対処は重要だ。患者にやさしいオーダーメード流動食を提供するための研究を続けている淺香隆教授に、その手段や研究手法などを伺った。

 

長寿化などによって高まる流動食の多様化へのニーズ

風邪をひいたりして食欲がないとき、とろとろのお粥を食べさせてもらった経験があるだろう。大病をしたり全身麻酔の手術を受けたりしたことがある人なら、回復までの間に流動食を摂ったことがあるかもしれない。回復に向かっている患者に対しては、水のように「サラッ」としたものから、ポタージュのようにとろみのついたもの、もっとどろどろなものなど、回復に合わせて段階的に通常食へ戻していくこともある。

流動食は本来、患者ひとりひとりの症状や病態に合う粘度、必要な栄養素、患者が摂取している薬との食い合わせやアレルギー対策などがすべて違うデリケートなものだ。しかも、その質や機能は患者の命にかかわる。「患者だけではなく、日々欠かさず食事を用意する病院や施設の管理栄養士やスタッフ、そして家族のためにも、安全で機能性に優れ、扱いやすい流動食の研究・開発が必要です」と淺香教授はいう。

粘度や材料など多方面にわたる研究分野

体内に入ってきた食べ物は胃で消化され、小腸、大腸で栄養や水分を摂取され、最後は便になる。口から入ってきたものが水のように「サラッ」としていると、加齢や障害などが原因で体内のセンサーは食べ物が入ってきたことを認識しにくいことがある。「ある程度トロミがついた/固まったものでないと、喉のセンサーが間違えて、胃にいくべきものを肺に通してしまうことがあります。それが誤嚥性肺炎の原因になり、体力が低下した人にとっては命とりになることも。また、胃のセンサーが固形物を認識できないと、せっかく入ってきた食事が腸を素通りして下痢を引き起こすこともあります。食べ物を正しく消化・吸収するためには、程度の固さが必要なのです」

患者が自力で食べられる柔らかさで、かつ体内で栄養として正常に摂取される固さ。それは患者ひとりひとりの症状や体調によって違う。オーダーメードでないと、本当に安全で機能性に優れたものは提供できない。けれど、提供する側にとっては大変なことだ。「やれることはいろいろあると思いますが、私たちは管理栄養士からの要望を受け、流動食の粘度を正確に測ることからはじめています」

もののかたさ、粘度を数値化するのはなかなか難しく、医療現場では不可能に近い。それを担うのが、淺香教授の研究室だ。研究がスタートした段階では、東海大学付属病院から学内便で届く実際の治療食の材料を記録し、粘度を測定する。それによって再現性も確保でき、改善点も明らかになる。粘度を変えたり、より作りやすく、扱いやすくしたりするための工夫もする。材料同士の組み合わせや、薬と合わせたときに出る相乗効果、拮抗作用なども研究している。

自発的な研究にムダはない、すべてが今後に役立つ知見になる

物の固さを調べる実験装置。研究はこうした機器を使った実験の積み重ねだ。(クリックすると動画が開きます)

材料や薬の組み合わせは無限にあるため一つひとつやってみるしかない。「こうすればこうなる」というルールも明確ではなく、思うようにコントロールできないことも多い。「求められていた通りのものができた時はうれしい。でも、できなくても“うまくいかない”ということがわかるのだから、それでいいのです。研究にムダはありません。自分でムダと決めつけたり、あきらめたりしない限りは役に立ちます」

淺香先生自身、学生時代、そして企業に就職した後も現在の研究とは直接関係のないセラミックの研究をしていた。その後大学に戻ったが、対外的には芽の出ない研究も多かったという。しかし、それらの研究は、直接ではなくても今に結びついている。「計測の仕方や材料を検討するときの知見、さらには人脈という点でも、有形無形につながっています。特に東海大学の卒業生は、さまざまな業界で活躍している。研究分野、実務分野に関わらず、ひょんな時に同窓生と出会い、有益なつながりが結べることが多々あります」

淺香教授は研究をいかに社会に役立てるかを常に考えながら学生とともに研究を進めている。そんな淺香教授の学生へのメッセージは「この流動食が間に合えば命を救えた患者さんがいたかもしれない。そんな悔しさをバネにしつつ、研究の成果によって役立てたことをやりがいにする。私はそんなふうに学生たちと一緒に切磋琢磨しています。それができることがうれしいです。学生たちには自発的に考え、動ける力を身につけてほしいですね。そして、興味があることには、頭で考えすぎずにどんどん挑戦してほしい」

応用化学科:淺香 隆 教授
【Profile】
あさか・たかし
1965年東京都生まれ。84年東海大学工学部工業化学科入学。93年大学院工学研究科金属材料工学専攻博士課程後期修了。博士(工学)。セイコー電子工業株式会社を経て東海大学に勤務。専門は機能性複合材料の合成と物性評価・分析、介護・治療食の物性評価
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