〉〉東海大学オフィシャルサイト
東海大学 工学部 School of Engineering Tokai University MENU
TOP > 研究紹介 > 

2019.07.02 ナノテクノロジーを用いた靭帯再生の研究 
材料科学科 葛巻徹教授

研究紹介

CLOSE

2019.07.02

ナノテクノロジーを用いた靭帯再生の研究 
材料科学科 葛巻徹教授

金属やセラミックス、高分子材料など、工業機器や製品類の材料に使われる物質を研究する材料科学。葛巻教授は電子顕微鏡や各種分析機器を用いてナノレベルでさまざまな物質の構造や物性の解析から新素材を開発する研究を行っている。また、その手法を生かして手掛けているのが靭帯や腱の再生に関する研究だ。その最前線の成果を聞こうと、葛巻徹先生を訪ねた。

腱の再生から靭帯の再生へ研究をシフト

以前から腱の再生に着目して医学部と合同で研究を進めてきた葛巻徹教授。材料科学の観点から、腱再生のメカニズムの解明と、その応用による人工腱の開発を手掛けてきた。実用化されれば、生体から分泌された組織を生体外に取り出し、機械的に張力を加えて人工腱を作り、それを移植することが可能となる新技術だ。

 

当初はマウスを使って研究を進めてきたが、最近は中型動物(ウサギ)を使った研究へと対象をシフトし、さらに腱よりも靭帯の再生に力を入れ始めたと言う。「アキレス腱は筋肉にくっついているため血管が近く、切れてしまってもそこから栄養が供給されやすく自然と再生する可能性が高い。それよりなかなか直らない靭帯へ応用した方が、患者さんの需要が大きいのではないかと考えた」と話します。

アキレス腱修復の過程で利用される生体組織は靭帯とほぼ同じだ。ただ問題は、靭帯から出てくる生体分泌組織では、移植して使えるほどの量が得られないこと。その解決策として生体分泌湯組織の大型化にも取り組んだが、上手くいかず失敗してしまった。だが、その過程で大きなブレイクスルーに気が付いた。

失敗が転じて新たなる可能性の発見

「移植しようとすると大きなサイズの組織を作らなければならない。そこで、これまでのノウハウを生かして3つのパターンで靭帯再生にアプローチすれば行けるのではないか」と考えたという。その1つが、生体組織再生プロセスから得た知見を基に“靭帯を再生させる成分そのものを増加させ、一定期間成熟させた後に適度な刺激を与える”というものだ。靭帯が損傷した時に傷の再生を促進する手法はすでに存在している。だが葛巻教授のやり方が実現すれば、従来の手法よりも高い効果が期待できる。なおかつ、移植手術の必要がないため患者の負担を少なくして靭帯を再生させることが可能となる。完全に切れてしまっている場合は移植が必要だが、部分断裂という場合であれば、その方が効果的なのではないかと考えた。

これは患者のQOLを一気に高める。特に高齢者などは求める人が多くいるだろう。ただ、まだ課題があり、再生しても以前と同じようになるかと言われればそうではない。「傷めた組織は修復されているんだけども、損傷が再発する場合がある。それは正常な部分と修復された部分で固さが異なってしまうため、その境目で炎症を起こして断裂してしまうと考えられます。正常組織と同じように柔軟な靭帯を再生させるためには、修復までのメカニズムをより詳細に解明する必要がある」

切れる前の靭帯と同じものにならないのは、再生組織が正常組織とは微細構造が異なっているためではないかと考えている。再生組織の形成メカニズムを解明し、修復のステージに応じて適切なプロセスをコントロールすることが必要になるというわけだ。そのため、すべての再生メカニズムの解明が重要となってくる。靭帯の再生1つ取っても材料科学は奥が深い。

多分野に通じ、多様な切り口をもつ“材料科学”

靭帯の再生のほかにも、ナノカーボン物質を使って自動車の部品を軽量化したり、考古学の貴重な遺物の製作技術の進化の解明なども葛巻教授は手掛けている。核となるのは、さまざまな物質をナノレベル分析できる技術だ。そのニーズは多岐にわたり、葛巻教授自身、思ってもみなかった研究との出会いもあったそうだ。

さまざまな分野に通じる切り口の多いところが材料科学の魅力の1つ。よく“やりたいことをやるための切り口は決まっている”という人がいるが、実際はそんなことはないと葛巻教授は言う。

「研究していて思ったのは、切り口はどこでもいいんだな、ということです。材料という立場から再生医療にも貢献できますし、逆に工学的なエビデンスを基にアドバイスすることで医療従事者の仕事がよりよくなる、ということもあります。大切なのは、どういう切り口でもいいから、今問題になっていること・将来大きな問題になりそうなことに向かっていくこと。そういう自分なりの課題を立て、貢献したいという意思があれば、一見関係ない分野をやっていたとしても、自分が得意とすることで貢献できる場はいくらでもあります」

最後に葛巻教授は学生たちへ向けてのメッセージとしてこう締めくくった。

「今やれることからやる。そういう切り口からスタートしても大きな目標さえあれば、どこからでもアプローチはできる。私自身やってきて、そう思いました。材料科学は切り口の多さという意味で入りやすいところだと思います。どんな分野にも繋がる窓口がある。そういった意味でも、是非、材料科学について知ってもらえたらなと思います」

材料科学科:葛巻徹 教授
【Profile】
くずまき・とおる
1991年度に東海大学大学院工学研究科修了。東京大学生産技術研究所講師などを経て、2007年に東海大学へ赴任。2010年度より現職。
トップへもどる