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2018.12.21 体の働きを再現するマイクロ流体デバイス
工学部機械工学科・木村啓志准教授

研究紹介

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2018.12.21

体の働きを再現するマイクロ流体デバイス
工学部機械工学科・木村啓志准教授

病気のメカニズムを解明して、新しい薬を開発する。それは人類の健康を守るため、多くの研究者が叡智を結集して進めている研究分野だ。その研究には長年実験動物が用いられてきたが、人工的に作った臓器や血管などに置き換えようと進められているのが「マイクロ流体デバイス」の研究だ。その最前線に立つ機械工学科・木村啓志准教授(マイクロ・ナノ研究開発センター)を訪ねた。

マイクロ流体デバイスは、シリコーンゴムを主な材料に作られる手のひらサイズのデバイス。1000分の1ミリ単位の微細加工技術を使って、肝臓や腎臓、小腸、血管、さらに生殖器といった臓器内の環境を再現している。

「生体内に近い環境を疑似的につくることで、培養細胞を勘違いさせるのがこのデバイスの特徴です。形状や機械的な刺激によって、細胞の機能を維持させたり、新たな機能を発現させたりすることもできます。生体から取り出した臓器や組織を使って長期間実験することはできませんが、このデバイスを使えばそれも可能になる」と語る。

この分野の研究は日進月歩で進んでおり、生物学では特定の細胞の機能を調べるツールとして実用段階に入っている。現在注目されているのが医学や創薬への応用だ。動物実験や臨床試験の代替機器、生理現象の解明への利用、細胞管理用機器などさまざまな応用法が模索されている。

創薬コストの大幅削減にも貢献

なかでも創薬研究では、開発費用のコストダウンや期間の短縮化を図れるデバイスとして期待を集めている。ヒト用の薬を作る場合、ヒトでの臨床試験の前に動物で効果を確かめる必要があるが、動物に効いてもヒトには効かないことも多く、その逆もある。しかも動物愛護の意識向上により実験コストや期間が年々上昇しているという。「マイクロ流体デバイスはそうした課題を一気に解決できる可能性もある」と木村准教授。

木村准教授は医学分野との連携を積極的に進めている。医学部の秦野伸二教授と大友麻子助教が取り組む筋萎縮性側索症候群(ALS)のメカニズム解明に協力。神経細胞の一部である軸索の伸張を制御するマイクロ流体デバイスを作製し、数十の神経細胞のサンプルを一度に観察する手法を実現させている。また、昨年度からは日本医療研究開発機構(AMED)の採択を受けた研究プロジェクト「再生医療の産業化に向けた評価基盤技術開発事業」にも参画。医薬品の候補となる化合物の安全性や効果を評価する新手法の開発に向け、マイクロ流体デバイス開発チームの研究開発担当者も務める。

「生体機能を再現できる臓器も少しずつ増えています。なかでも私たちが力を入れているのが腎臓の研究。腎臓は、構造が複雑なため『再生できない臓器』といわれています。その機能のうち、まずはおしっこの元となる原尿を作る濾過のメカニズムと原尿から必要な物質を再吸収するメカニズムを再現したい。また、いつかは人工子宮を実現し、不妊治療などにも貢献したいと考えています」

人の役に立つエンジニアに

木村准教授がマイクロ流体デバイスと出会ったのは、ロボットの研究をしていた大学生のころ。ただ、「このまま人工物の研究を続けても、自分が目指す『人の役に立つエンジニア』になれるのだろうか」と悩んでいた時だった。

「人工物と生物を組み合わせれば新しい道が拓けるかもしれない」そう思い、マイクロ流体デバイスの研究につながる恩師の門をたたいた。そこから独学で生物学を学び、一歩ずつ研究を積み上げてきた。「何か新しい謎を解明したい人がいたとします。その人をマイクロ流体デバイスの技術で支えたい。それが研究のモチベーションになっている」と話す。

研究を始めたころは「海のものとも山のものともわからない」といわれたマイクロ流体デバイスだが、現在では認知も高まっている。木村准教授のもとにも、さまざまな分野の研究者から、デバイス開発や提供の相談が寄せられている。「そうした出会いの中から、研究が発展している。学生にもその大切さをしっかり理解してほしい」と語る。

研究室では、「あいさつと感謝、約束を守る」ことを大切にしている。「日本人は外国人に比べて真面目な性格。その信頼が日本の技術を支えてきたと思っています。その特性をより効果的に発揮するためにもこの3つが重要です。研究室では卒業までにそのことをしっかりつたえていきたい」

機械工学科:木村啓志 准教授
【Profile】
きむら・ひろし
 1980年神奈川県生まれ。法政大学工学部卒業後、東京大学大学院工学系研究科博士課程後期修了。博士(工学)。東大生産技術研究所特任助教などを経て2012年から現職。専門は、微細加工、バイオエンジニアリング、生体システム工学。

 

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