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2022.09.23 MRIを活用した新たながん診断法を開発
医工学科・高原太郎教授

研究紹介

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2022.09.23

MRIを活用した新たながん診断法を開発
医工学科・高原太郎教授

がんは日本人の死因のトップで、もっとも恐れられる病気のひとつ。いっぽうで2人に1人はかかるといわれる身近な病気であり、症状が多様で、致死率が高い。日進月歩の医学界において、さまざまな治療法が試され、実際に成果を上げているものもある。しかし第一の対策が早期発見であることは、誰もが認めるところだ。しかし、そもそも早期発見へのハードルが高い。その課題を解決すべく、東海大学医用生体工学科の高原太郎教授は、画期的ながん診断「DWIBS(ドゥイブス)法」を開発し、その普及に努めている。

(2018年1月公開・2022年9月加筆修正)

被曝なしでがんを見出すDWIBS法

高原教授が開発した「DWIBS法」は、MRIで撮影できる「拡散強調画像(DWI)」を用いてがん細胞を発見する方法だ。2004年にDWIで世界初となる全身撮影に成功して書いた論文は世界で話題となり、新聞でもニュースとなった。

「DWIBS」の「DWI」はDiffusion Weighted Imageの略。「拡散に重きを置く画像」という意味で、日本語では「拡散強調画像」と訳される。拡張強調画像は、細胞内の水分子の拡散(動き)を画像化するもの。簡単にいってしまえば水分子の拡散の度合いを割り出し、それによって正常な細胞とがん細胞を見分ける。がん細胞は正常な細胞と比べて密度が高いので、細胞内の水分子は動きにくいため、がん細胞のある場所が判別できる仕組みだ。高原教授はこれを改良し、「BS」(背景信号抑制; Background signal Suppression)をすることで、全身のがんを俯瞰してみることができるようにした。

DWIBS法を使って作成した3D画像【クリックすると動画が再生されます】

DWIBS法の確立により、骨転移の有無や悪性リンパ腫など、腫瘍一般の診断が容易になったうえ、2017年には腫瘍の大きさを直接測れるようにもなった。大きさ測れるということは、定量化が可能ということ。つまり前回までの検査結果と比べて大きさがどの程度変化したのかを数値として測り、患者に示せるという。最大のメリットは「患者や家族の負担を軽減できること」だと高原教授はいう。第一に放射線による被曝がない。現在主流のPET法はわずかとはいえ放射線被曝があるので、頻繁に、繰り返し検査することは難しい。しかも検査時には注射が必要で、その後一定時間安静にする必要があるため、1回の検査に半日ほどかかる。一方のDWIBS法は、注射の必要がなく、受付から病院を出るまで1時間あまりで良い。そして、DWIBS はPETに比べて安価でもある。

普及への課題と解決

ただし、これは両刃の刃だ。全身MRIの場合、少なくとも3部位を撮影するが、現状の保険診療では1部位を単純MRIで撮影した料金で計算される。つまり病院にとっては時間がかかるうえに収入が少ないというアンバランスを生じ、これが普及を妨げているという現実もあった。 しかし2020年には、本法を用いた全身MRIが、厚生労働省の診療報酬加算の対象となった(適応:前立腺がん骨転移)。これにより、認定施設では加算が受けられるようになった。また、国の正式な撮影法として認定されたことになる。近年では技術の評価も高まり、すでにヨーロッパでは骨髄がんを調べる際に最初に行うべき検査に認定されている。また2022年には、DWIBS法を用いた全身MRIの教科書も上梓された。

DWIBS法は、撮像画質自体も、また画像の分析をする読影にも高い技術が必要となる。MRIの装置も比較的高性能の機器が必要だ。今後は、全国で質の高い検査が行われるようになるために学会・研究会活動を通して普及に努めたいと高原教授は言う。

痛くない乳がん検診の実現

また2018年からはDWIBS法を乳がん用に特化して、世界で初めての「痛くない乳がん検診」を実現した。MRI撮像と診断の両者ができるという、まれな高原医師の経歴がこれを可能にした。これにより、いままで痛みのためにマンモグラフィー検診が受けられなかった女性も受けられるようになるため、現在47%しかない乳がん検診率の向上が期待される。

常に患者の目線に立って

高原教授が常に患者の目線に立ち続けることには、ふたつの大きな理由があるという。一つはかつて臨床医として患者と直接相対していたこと。そして実父をがんで亡くしたこと。患者の家族として父を支えながら、DWIBS法の検査を用いて治療をサポートした。さらに自身が造影CT検査を受けた際の経験などを活かしながら新しい技術も生み出した。

「研究の世界はその道一筋になりがちです。もちろんそれは悪いことではありません。けれど私自身の経験から、どんなこともムダにはならないと伝えたい。私は臨床医としてMRIを撮り続ける現場にいたからこそ、それまでは不可能といわれていた全身の拡散強調画像撮影に着手し、DWIBS法を確立することができました。またやはり不可能だと言われていた、造影剤を用いない、痛みのない乳がん検査を世界で初めて実現(実用化)できた。たとえ寄り道に思えることでも、チャンスがあれば飛び込んでみる。ムリだといわれていることでも、気になることがあれば試してみる。学生のみなさんには、そうやって自分の道を見つけてほしいですね」

医工学科:高原太郎 教授 【Profile】
たかはら・たろう
1961年東京都生まれ。秋田大学医学部卒業。聖マリアンナ医科大学放射線科勤務、東海大学医学部基盤診療学系画像診断学講師、オランダ・ユトレヒト大学病院放射線科客員准教授などを経て、2010年から現職。医学博士。
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