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2017.10.26 気象の「見える化」で航空安全や航空環境を高める

研究紹介

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2017.10.26

気象の「見える化」で航空安全や航空環境を高める

 工学部航空宇宙学科航空操縦学専攻 新井直樹教授

私たちが日常的に経験している雨や風などの気象現象は、上空の大気の状態によって生み出され、地表にあらわれているものだ。それを読み解くために、広く天気図が使われているが、平面図のため一般の人には理解しずらい。そうした気象現象を、3次元でイメージしやすく表示するツールが「Weather Data Visualization Tool(Wvis)」だ。このツールの開発者であり、航空と気象のかかわりをメインに研究を進める新井直樹准教授に話を聞いた。

 

気象が航空機に及ぼす影響をビジュアル化してわかりやすく

Wvisで可視化した台風の3D画像

上空で繰り広げられる気象の状態は、航空機の運航に多大な影響を及ぼす。そのためパイロットは気象に関する知識を持っているが、必ずしも気象学の専門家ではないこともある。

「パイロットの専門は航空機の運航です。そのために必要な気象の情報は、できるだけ簡単にストレスなく入手できたほうがいいはず。気象学の専門家でなくても、気象の状況とそれが及ぼす影響をひとめでイメージできるようにしたい。それを目指して開発したのがWvisです。実は私自身も気象の専門家ではありませんでした。同じ空間で見たいと思う情報を見られるよう、今もこれがあったらいいなと思う機能を適宜付け加えています」

 インターネット上で公開され、自由に使うことができるWvisは、新井准教授が気象の専門家ではなかったからこそ生まれたといえるかもしれない。長くGPSの研究に関わりながら、可視化ツールの開発に携わっていた。その経歴が、気象の「見える化」へと結び付いた。

 Wvisによって見ることができる気象の状態は、風、温度、湿り気など。平面図である天気図との違いは、色の濃淡やビジュアルの動きなどによって、たとえば雲の厚みや高さ、風の強さや速さなどを誰もが直観的に感じ取れることだ。さらに、気象と航空機の航路を同じ空間に立体的に表示できる。これは世界初の画期的なシステムで、航空学の教育や、運航中に起きた事象の振り返りなどにも非常に役立つ。

 空の安全と同時に、気象現象への理解も広める

Wvisは気象庁や航空会社が提供する情報に加え、飛行中の航空機が発信している飛行データを集め、解析しビジュアル化している。飛行データは、主に全国に広がる東海大学の校舎や関連施設に設置したアンテナから収集している。実際の航空機によるリアルタイムの情報は、気象の変化で航空機の運航になんらかの異常が発生したとき、その関連性を解き明かす鍵にもなる。実際、新井准教授のもとには、航空機運航トラブルと気象との関連を解明するための依頼も寄せられている。解析結果のレポートの中にはウェブ上で公開されているものもあり、空の安全への貢献は、ますます広がっている。

「飛行機の安全はもちろん、快適性を高めるためにも、気象と航空運航のかかわりを把握して、その日のフライト状態を予測することが大切です。シートベルト着用サインが出れば、客室乗務員も着席しなければならず、サービスはそこでストップしてしまう。そのポイントが予測できれば、いつまでに必要なサービスを終えるべきか予測できますよね」

気象が見えることのメリットは、広く一般にも及ぶ。上空で渦巻く厚い雲。その状態を立体でリアルに表すビジュアルがあれば、この後に強い雨が降ることが実感として理解できる。気象というものが、非常に身近なものになり、気象に対する興味や注意喚起のきっかけになりえる。

小学生の時、南極越冬隊からの中継映像から、空いっぱいに広がるオーロラを自分の目で見たいと思った。その願いを叶え、GPSの研究中に第48次南極地域観測隊越冬隊に参加。そこで気象の面白さにふれたという。南極での経験を小学生に伝える「南極教室」では、伝えること、教えることの面白さを知った。

「気象は学問的にも面白い。1週間過ごしていれば、どこかでなんらかの出来事が起きます。空から材料が贈られてくるのです」。

新井准教授は大学の講義でも、できるだけ最近の身近な現象を使って学生に説明するよう心掛けている。自身の多彩な経験を研究や教育に結び付け、さらなる気象の可視化を進める。飛行機だけでなく船の航行と気象の関連などWvisの可能性はますます広がっている。

航空宇宙学科航空操縦学専攻:新井直樹 教授
【Profile】
あらい・なおき
1967年東京都生まれ。東海大学大学院工学研修了後、NEC生産技術開発本部、独立行政法人電子航法研究所主幹研究員。第48次南極地域観測隊越冬隊に参加後、2012年から現職。専門は航空気象。
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