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2018.08.08 車社会の未来を開くバッテリーマネジメント技術の研究
動力機械工学科・坂本俊之教授

研究紹介

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2018.08.08

車社会の未来を開くバッテリーマネジメント技術の研究
動力機械工学科・坂本俊之教授

今、自動車を取り巻く状況はダイナミックに変化している。自動車の動力は、200年に渡って使われてきた“エンジン”から、電気で動く“モーター”へのシフトが急速に進んでいる。その背景には、環境負荷の少ない社会づくりを目指す世界的な動向があり、フランスとイギリスは2040年までにガソリン車とディーゼル車の販売を停止するとの方針を発表して世界を驚かせた。世界中で開発競争が進む電気自動車だが、性能を大きく左右する部品の一つがバッテリーだ。画期的な手法でその劣化度を測定する技術を開発した動力機械工学科の坂本俊之教授に最新の研究動向を聞いた。

バッテリーの性能は電気自動車の性能

電気自動車を普及させる上で大きな課題になっているのは、1回の充電で走行できる距離の延伸と充電にかかる時間の短縮です。その課題を解決するため、急速充電が可能な全固体電池の開発や充電所などの社会インフラの整備が進められています。同時に、電気自動車自体の性能を維持するためには、バッテリーの劣化をいかに防ぎ、性能を維持するかが非常に重要になります」と坂本教授。
バッテリーはハイブリッドカーにも搭載されているが、大きな問題となっているのがメンテナンスの難しさだ。現状ではバッテリーを解体して中に入っている電池を取り出さないと、正確な状態を検査・診断することができない。そのため、走行中の状態を知ることはできず、ディーラーなどで手軽にメンテナンスすることもできない。坂本教授は、その課題を解決するため、バッテリーを解体することなく、安価で小さな装置を用いて残量や劣化状態を診断できる技術を開発。2017年11月には特許も取得した。

簡単に正確にバッテリー劣化を測定し、社会的負荷を軽減する

 自動車に搭載されているバッテリーは、充電池をつなぎ合わせて構成したセルを、さらにいくつも連結してつくられている。バッテリーの劣化の主要な原因は、セルごとの容量のバラつきだ。
 「セルの劣化量を、簡単に適正に診断できる技術があれば、劣化バラつきを抑制する技術の開発も可能になります。制御やメンテナンスのための重要な情報も入手できます。バッテリー性能を向上させ、長持ちさせることができれば、環境や労力など、様々な負荷が軽減されます」
 具体的な方法としては、セルに微弱な電流を流し、内部抵抗(交流インピーダンス)の値を計測。あらかじめ用意したセルの状態別の計測データと比較して残存容量や劣化量を定量的に計測する。従来研究されてきた同様のシステムに比べてシンプルなシステムになっているため、将来的には自動車に搭載して使用することも期待できる。
「この技術が実用化されればバッテリーの状態をリアルタイムでモニタリングし、劣化を抑えたより効率的な走行法を自動的に導き出すことも可能になる。環境性能の飛躍的な向上にもつながると期待しています」

社会に役立つものをきちんとつくるという学際研究の意義を追求したい

坂本教授は、営業畑を振り出しに、大手自動車メーカーの研究開発部門や製造現場の勤務を経て、50代で大学院へ進学。ハイブリッド自動車の全ての機種の製品技術を担当し多忙を極める中で、総代として博士号を取得。翌年教授になった。豊富な社会経験から、大学が特許を取る重要性を語る。
「企業が特許を取得すれば、その技術はいち企業の利益のためにしか活用されません。大学であれば、広く社会に発信し、技術をみんなで享受できる。大学は学術研究機関ですが、だからこそ積極的に特許を、それも企業も狙っているような実社会で使える特許を取得していくべきだと考えています」

工学分野では、実社会で役に立つ成果を念頭に、研究へ取り組みます。新規性、進歩性のある研究は、実行可能性が具体的に担保できれば、特許へ結びつくはずです。高度な研究と高度な特許はお互い近い関係にあります。しかし残念なことに、アカデミックの世界では、研究内容を苦労して特許化しても、研究成果としてはカウントされません。ビジネスの世界では、研究開発成果を苦労して論文にまとめても、業績としてはカウントされません。外から見ると似ているような世界ですが、評価のものさしが全く異なり、お互いを認め合うことがありません。これは学生にとっても不幸なことです。ビジネスの世界で経験を積んだ我々のような教員が、この壁を取り除いて、社会が求める本来の成果への橋渡しをする必要があると感じています。

企業にいるときからのクセで、常に研究課題を掘り出し続けている。すべてを手掛けることはできないが、温め続けた研究テーマ同士が結びつくことも少なくない。学際領域に挑戦し、社会に活用できる研究成果を発信すること。それが、坂本教授の研究室では自然なこととして浸透している。
「エンジニアリングはみなが協力して製品をつくりだしていくものです。もちろん大変なことが多いですが、やりがいも、目的のものを生み出したときの喜びも大きい。それだけに、世の中のためになるものをきちんとつくることが大切です。中途半端なもの、よくわからないけれどできちゃったというようなものを世に出すわけにはいきません。そのベースにあるのは、研究・開発に関わる一人ひとりが、課題を自分のこととしてとらえ、自分の頭で考え自分の足で動く姿勢が不可欠です。その大切さを学生たちに伝えたいと思っていますし、学生たちもその思いによく応えてくれています」

 

動力機械工学科:坂本俊之 教授
【Profile】
さかもと・としゆき
神戸大学大学院博士課程後期課程修了。工学博士。重電メーカに勤務し、軸発電推進システムを造船所で共同開発、完成車メーカで電動車両用エネルギーパワープラント関係の研究開発及び品質熟成を担当、2011.04より現職。専門は、動力・輸送機械工学、エネルギー変換工学、計測制御工学
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