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2019.01.28 農産物の機能性を糖鎖科学で解明する
生命化学科 黒田泰弘准教授

研究紹介

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2019.01.28

農産物の機能性を糖鎖科学で解明する
生命化学科 黒田泰弘准教授

糖鎖とはその名の通り単糖が鎖のようにつながり合ったもののこと。オリゴ糖やグルコースもその一種だ。人間の体内には多種多様な糖鎖が存在し、生命現象に重要な役割を果たしている。がんなどの病気になるとその構造が変化することから、異常な糖鎖の構造を解析することは医療分野への貢献につながると期待されている。そんな糖鎖を研究するのは生命化学科の黒田泰弘准教授。ここ数年、野菜の『ヤーコン』の機能性分析に糖鎖科学を応用していると聞き、研究室を訪ねた。

オリゴ糖の塊のような芋『ヤーコン』

「この研究のきっかけとなったのは農学部からヤーコンの構造を調べてほしいという依頼が来たことからでした」。そう語り始める黒田准教授。ヤーコンはキク科の根菜で、“オリゴ糖の塊のような芋”と言われるくらいフラクトオリゴ糖がたくさん含まれている。フラクトオリゴ糖は腸内細菌の栄養源となるため、整腸作用がある。また、ポリフェノールも豊富に含んでおり、抗炎症作用をもつ種類のポリフェノールが含まれている点も魅力だ。

医療費高騰が問題になっている現代、日ごろの食生活から健康を維持・改善できるなら、ヤーコンのような機能性食品には大きな意味がある。ただの問題は、ヤーコンは水分が多いため日持ちせず、さらに長期保存すると分解酵素がフラクトオリゴ糖を分解してしまう点にある。栽培環境によっては機能性成分が入っていない場合もあり、収穫直後にシロップなどに加工しても、製法によっては機能性が失われてしまうこともあるという。

「分解が進めばその分甘味は増すものの、機能性は落ちてしまう。また加工の過程で機能性が落ちてしまえば本末転倒。そのため、最適な栽培環境や加工の過程での糖鎖の構造の変化調べれば、機能性を維持できる方法の開発にもつながる」という。

より多くの人に効果が出るように、より良い機能性を

研究室では、糖類やポリフェノールの検出に高速液体クロマトグラフィーを利用。抗酸化作用の調査には生命科学分野で広く用いられている比色定量法を使い、ポリフェノールの構造は質量分析装置を使うなど、さまざまな実験装置を組み合わせて研究している。さらに、マウスによる実験も組み合わせて、シロップの整腸作用、抗炎症作用、さらには免疫系の作用を解析している。今後は科学的な評価手法を確立し、ヤーコンだけでなく、さまざまな食品の研究にも生かすことも検討している。

ただマウスにも個体差があるため、定量的に評価をするのは容易ではない。もちろん研究が実を結んでも、万人に必ず効果があるものができるとは限らない。「それでも、6割の人に効果があるならそれでよいと思っています。薬でも人によって効果が出たり、出なかったりしますから、それと同じです。ヤーコンシロップに限らず、自分に合うものを使ってもらえたらいい。ただ私は、なるべく多くの人が健康になれるような、機能性食品をつくる手助けができればと思っています」

学生との二人三脚で糖鎖を探求していく

評価するのが難しい研究。研究室の学生も、結果が毎回変わってくるだけに何度も何度もやり直すという苦労がある。「けれどその分、よいデータが取れた時の喜びは大きなものです」と話す。

研究室では、学生に答えを教えないようにしているという。学生自身が問題を発見し、それを解決するという能力を身に着けさせるためだ。アドバイスはするが、どうやったらできるのか、そのためにどんな手法でいけばいいのか、基本的に自分で調べさせ、考えさせる。「そのためか、学生のモチベーションも高い」という。

研究を進めることに重きを置くなら、学生に指示し思い通りのやり方で進めた方が効率はいい。しかし、学生が独自にやることで得られるものも大きいと黒田准教授は言う。「一緒にやっていると、私がやったこともない方法を提案してくる学生もいます。そういった意味で一緒に勉強していく感じですね。そのおかげで新しい発見があったり、互いに意見を出し合うことで進められた研究もあります。そこが学生との研究の面白いところです」

ヤーコンのような機能性食品に限らず、ワクチンを作ったりなど医療方面にも大きく活躍する糖鎖。今後も糖鎖を活用し、社会貢献していきたいという黒田准教授は、最後に学生に向けてのメッセージで締めくくった。「やりたいことは、早く見つけておくにこしたことはありません。目標をかなえるためにはどうすればいいのか考え、自分が何に興味があるのか、何を目標にするのか……。早めに見つけておけば、すぐにその道に向かうことができます。まずは自分を知ること、そこから目標を見つけることができれば、有意義な大学生活を送ることができると思います」


生命化学科学科:黒田泰弘 准教授
【Profile】
くろだ・やすひろ
博士(工学)。2008年に糖鎖科学研究所の特定研究員として着任。2009年より現職。専門は、糖鎖工学、生化学

 

 

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